Profile
株式会社フォーシックス
代表取締役・
旬菜鮮魚「てつたろう」運営
柳川 誉之
(TAKAYUKI YANAGAWA)
1970年 大阪府大阪市生まれ。
12歳から家族が経営していた喫茶店を手伝い、20歳で経営者に。
この頃、兄を自死で亡くす。
飲食店以外にもさまざまな業種で事業拡大していくが徐々に縮小しながら、2016年に海鮮居酒屋「てつたろう」をオープン。
2020年、新型コロナウィルス対策の自粛によって経営困難に。
危機的状況のなか、困った人に食事を提供することをSNSで呼びかけたことから、生活困窮者に弁当を配布するクラウドファンディングを実施することになる。
2021年、継続的に支援する方法として、飲食店のサブスクリプションサービス「EAT&DERIVER(通称:イーデリ)」を企画。
飲食店と支援を必要とする人の命を救うシステムとして、自ら活動し普及に取り組んでいる。
JWSホワイト企業アワード インクルージョン部門大賞受賞。
本業を通じて支援を行えるシステム「EAT&DERIVER(通称:イーデリ)」について、取り組みをするまでの経緯、どのような想いがあったのかなど、活動されている柳川さんにお聞きしました。
はじめに「イーデリ」について教えてください。
柳川さん:
飲食店のサブスクリプションサービスで、決まった月額が継続課金されます。通常のサブスクは使用されなかった分は店舗の利益になりますが、これを支援を必要とする方々へ配布する弁当に充てています。
飲食で使用すると、2%を弁当の費用へ積み立てます。
定額の収入があることによって飲食店は運営しやすくなるため、飲食店を持続するための支援でもあり、生活困窮者への支援とともに両方ができる仕組みになっています。
<イーデリの仕組みについて(ホームページより)>
応援者はお店が発行する定額リターン 3,000円・5,000円・10,000円 からランクを選び、1か月の間に定額範囲で飲食を楽しめます。
期限内に利用がなかった場合は、その未使用分のリターンを翌月に弁当や食材に変えて、支援を必要とする方々に直接、またはNPO団体を通じて届けます。
(画像出典:イーデリ)
「自分が一番しんどい時に、誰かのためになることを」
コロナがきっかけで「イーデリ」が生まれたのでしょうか?
柳川さん:
元々、コロナ禍の少し前から経営の雲行きは怪しくなっていました。
そうこうしているうちにコロナが広まって、もういよいよ継続できる状態じゃない。もう生きていくのも終わりかな、と死を意識していました。
兄が命を絶った季節と重なって、同じような最後を迎えるかもしれないと。
そのときに「自分がしんどい時こそ、人のために何かする」という、恩師大久保秀夫さん(公益資本主義推進協議会会長)の言葉を思い出し、今、1番追い詰められているこのときに、人のために何かしよう。と思いました。
「生きている」というのは、言葉や生き様などで人の記憶に残れば、肉体が存在していなくても
「生きている」のと同じと思うので、存在している間に、生き様を残そうと。
自分や飲食店の人もつらいけど、もっとつらい状況のところはどこか?
最初に思いついたのが宿泊業で、ホテル組合へ連絡もしました。
結局、反応がなかったので、次に思いついたのが、自分は飲食店をやっているから困っている人に食事を提供できる、と思いました。
その頃緊急事態宣言が発令され、益々苦境に。でも、1食でも食べて活力をつけてもらいたい。
そう思ってSNSで、「もうダメだ、と思っている人、ここに来て」と食事を無償提供することを投稿しました。
もともと同じ経営者の人に向けたメッセージだったのですが、想いを書いているうちに、困って
いる人すべての人へのメッセージに変わりました。
1日でシェアが拡散されていて、投稿を見て「何かできることありませんか?」と申し出てくれる方が現れ、クラウドファンディングを立ち上げることになりました。
クラウドファンディングの内容は、てつたろうで販売している弁当を買っていただいて、その弁当を路上生活者や行き場を失った人たち、職を失った人たちに配布するというものです。
320万円の支援が集まり、そのお陰で経営危機は何とか乗り越えることができました。
クラウドファンディングの支援で、1年ぐらい弁当の配布はできますが、その後、どうやって継続したらいいかと悩んでいました。
他にも地域の支援もしていますが、この弁当の支援は継続したいという気持ちが強くなりました。
そこで、前から取り入れようと考えていたサブスクリプションサービスの要素を組み合わせたらどうかと、システム会社をしている人にも相談し、今の「イーデリ」の仕組みを作りだしました。
▲月に1回(冬場は2回)大阪市北区の路上生活者85名へ直接弁当を届けている
(画像出典:イーデリ)
日本全国の1%の飲食店に取り入れられ広がることを目指す
柳川さん:
継続的な支援をすることによって飲食店が助かる、社会で困っている人が助かる。
応援してくださる方が増えれば、こういう飲食店が増えて救われる人も増えるのではと思います。
社会課題というのは時代によって変化すると思うので、変化に対応できるのが「イーデリ」の仕組みで、NPOを連携していくと柔軟性があります。
飲食店は日本全国に約70万店舗。その1%の7000店舗がイーデリのようなシステムを取り入れたら、苦しんでいる人に手を差し伸べることがもっと広がると信じています。
「1食」で助かる命があることを信じる。
柳川さん:
私が「1食の食事で助かる命がある」と信じて「イーデリ」をやろうと思ったのは身内の体験談があります。
「もう生きていきたくない」と思って、ある名所近くの旅館に泊まりに行き、そこの女将さんが声をかけてきて、ご主人と釣りに一緒に行こうと呼び出され、釣った魚を調理して食べさせてくれたそうです。
とにかくにっこり笑いながら「食べて食べて」と特に何か聞かれることもなく。
そうやって食べていたらいつの間にか死にたいと思わなくなったということでした。
それは特別豪華なごちそうを食べたからということでなく、「心のこもった温かい食事」が救ったんだと思うんですね。
誰かと一緒に食べたごはんとお味噌汁とか、忘れられないような状況で「一杯の食事」が人生を変えるようなものになると思います。
餓死しないようにするというよりか、一歩踏み出すきっかけになればいい。そのきっかけ作りができたらいいと思います。
根底にはみんな等しく尊い命を絶ってほしくないという想いがあり、
自殺防止センターのボランティアの方へ差し入れもしています。
ボランティアの方からは、「自分たちの活動を見てくれている人がいると思うとうれしい」というお声もいただいて、ボランティアの人が活動をしやすくなったら、間接的でも人の命を助けられるといいと思っています。
本業で社会貢献する仕組みが素晴らしいですね。
柳川さん:
以前、大阪府が主催の「孤独・孤立フォーラム」の講演に呼ばれて登壇したことがありましたが、お声がけしてくださった理由が「事業そのものが社会貢献になっている」ということだったそうです。
いろんなネットワークを使って探してもそのような会社は見つからなかったといわれてました。希少なことをやっているようなので続けていきたいと思います。
今のところ、ほかで「イーデリ」を取り組みしているところはありません。
もう少し、実績ができたらほかの飲食店さんにもおすすめしていけると思っています。
支援が多く集まれば店舗側の助けにもなりますから。
最後にこの記事を見られた方へメッセージがあればお願いします。
柳川さん:
「恩送りが恩返しになる世の中にしたい」という想いで活動しています。
恩を送ると広がりができると思います。
恩を返す対象が1対1の直線的なつながりでなく、社会や地域などに向けることによって、多角形的のような複数のつながりで広がっていくといいと思っています。
あとは居場所がないと思わないようにしたいですね。
最近わかったことで、「自立する」ということは、自分一人で何でもできるようになる、と思いがちですが、自分が苦しいときに助けを求めることができるということが本当に自立しているといえるそうです。僕も、そう思うようになりました。
ぜひ、イーデリの仕組みを通じて、お店を通じて、社会とつながり、社会貢献に参加してもらえたらと思います。
参加してくれる人が増えると、みんなで助け合える社会に変わると思います。