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産業ゴミに第2のストーリーを。日本発のアップサイクル好事例

産業ゴミをへらせると、SDGsゴール「12.つくる責任 つかう責任」「13.気候変動に具体的な対策を」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」の3つの目標に貢献できます。

人間にとって「モノを買う」という営為は不可欠。一方、消費を通して自然破壊や気候変動問題など、環境に負荷をかけているものやむを得ない側面も。経済成長と持続可能な開発の両立には、資源のムダづかいを見直し、リサイクル技術で循環型社会へのシフトが大切になります。

環境省※によると、2019年の産業廃棄物の総排出量は約3億7,975万トン。ジャンボジェット機に換算して約97万機分、日本人ひとり当たり約3トンの産業ゴミを出している計算に。原料調達で環境に負荷をかけない、サプライチェーンの見直しや、資源に配慮したものづぐりの重要性が叫ばれています。

 

アップサイクルとリサイクルのちがいとは?

リサイクルとならび、最近よく耳にする「アップサイクル」。どちらも持続可能なものづくりで、重要なカギを握る方法論ですが、似て非なる言葉です。

アップサイクルとは、廃棄物や不用品に新たな付加価値やアイデアを加えて、次元や価値を高めてまったく新しい製品に作り変える手法。素材の再利用を意味するリサイクルより、さらにサスティナブルな製品づくりに貢献できる考え方ですアップサイクルは、以下の観点よりSDGs目標の達成に役立ちます。

 

①環境負荷の軽減につながる

廃棄物は「産業廃棄物」と「一般廃棄物(家庭ごみ)」の2種類に分類。さらに、産業廃棄物は「法律で定められた20種類の産業廃棄物」と「事業ゴミ」に分かれます。廃棄物の処理にはコスト負担が伴うだけでなく、焼却時に発生するCO2といった環境負担が問題視されてきました。

アップサイクルは、原料調達コストの低下、元の原料を分解する手間が省いて、消費エネルギーの節約にも貢献します。

 

②新たな雇用創出を果たす

アップサイクルを通して、地域経済の活性化や雇用創出のチャンスが生まれます。地場産業を支える地元の人達や協働しながら、新たな形で地方創生を支援できる点もアップサイクルの潜在力です。

 

【事例1】”乾燥酒かす”で廃棄ゼロを実現/越つかの酒造

日本酒造りで大量に発生する副産物「酒かす」。生の酒かすは大量の水分を含み、産業廃棄物として処理されていました。

この大量廃棄問題に取り組んだのが、新潟県の老舗酒蔵『越つかの酒造』。2020年1月より、年間40トンもの酒かすを乾燥させて粉末加工化する技術を開発。保存期間も約1年と、製品寿命をのばすことにも成功しています。

資源の循環化で、廃棄ゴミの削減や100万円以上のコストダウンを同時達成料理や肥料として販売して、ほぼ廃棄ゼロを実現させました。

同県村上市で養鶏場を営む村上農園では、ニワトリの飼料に乾燥酒かすを食べさせたところ、毛づやや健康状態が見事に改善。ニワトリに活力がみなぎることで、良質な卵が生まれるのではないかと期待をよせています。

 

【事例2】大量の繊維くずを工芸品に/榛地織物

繊維業界は、環境負担の大きい産業のひとつ。

平成28年度の産業廃棄物の種類別処理状況によると、日本の繊維くず総排出量は120千トン。再生利用率は61%にとどまる現状に。日本国内のアパレル供給量は約40億点。1990年頃の20億点と比べて、約2倍に増えています。

大量生産、大量廃棄による資源のムダづかいに加えて、洋服の製造工程で生まれる繊維くずも大きな課題。繊維くずとは、繊維工業から排出される糸くず・布くずといった天然繊維のこと。産業廃棄物として、環境に負荷をかけてきました。

 

こうした環境問題を解決するため、静岡県・遠州織物では繊維くずを工芸品にアップグレードする取り組みを開始ハンドメイド作品を販売するオンラインサイトCREEMA(クリーマ)と連携し、20万人以上のクリエーターから作品を募集するプロジェクトを企画実行しました。

今まで捨てられていた「布耳」と呼ばれる繊維くずは、クリエーターの手によりハンドバッグやポーチへと変身。廃材活用はクリエーターにとっても意義深く、「創作意欲がわく」「新たなアイデアの源泉になる」など予想以上の反響があったそうです。

 

これら2事例を通して、あらためてものづくりの力と潜在可能性に気付かされます。優れた技術やアイデア、パートナーとの協働がSDGs達成の入り口であり、地球に寄り添った世界の創造につながることを。日本人の美徳や繊細な感覚を生かした共創が、今後重要性を増すことでしょう。

Kazuki

米国・ニューヨーク州在住の環境ライター/3児の母。好きなコトバは「人生は美しい。人生は甘美だ」(ブッダ)。知るために、書く。書いて、つながる。がモットーです。

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