核兵器のない世界を
ロシアによるウクライナ侵攻後、平和を実現するために私たちは何を選択するべきなのか、国内でも多くの人が改めて考え悩んだのではないでしょうか。
先日、川崎哲氏(ピースボート共同代表・ICAN国際運営委員)を講師に「核兵器のない地球のつくり方〜戦争ではなく平和の準備を〜」のタイトルで市民企画講座が開かれました。この記事では「核兵器禁止条約」についてご紹介していきます。
2023年5月のG7広島サミットの成果として発表された「核軍縮に関する広島ビジョン」において、核廃絶への具体的な道のりが示されなかったことに失望の声があがっています。川崎哲氏も、広島ビジョンで「核兵器禁止条約の存在や意義」に触れるべきだったという立場です。
現在、世界には1万2千発を超える核弾頭が存在し、その90%を米国とロシアが、残り10%を他の7か国が保有しています。
2000年以降、NPT(核不拡散条約)のもとで核保有国の交渉が停滞する中、新たな仕組みを作るための主導権を握ったのは核を持たない国々と赤十字国際委員会でした。核兵器を使用した場合のリスクが多角的に議論された結果、核兵器が非人道的であることが国際社会に広く認識され、世界の国々は禁止条約の策定へと動き出したのです。
核兵器禁止条約は、2017年に国連加盟国の6割を超える122か国の賛成により採択されました。川崎哲氏が委員を務めるICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)は、条約採択に大きく貢献したことを理由にノーベル平和賞を受賞しています。
2020年には批准した国の数が条約発効要件である50か国に達し、2021年1月に条約が発効しました。
核兵器禁止条約が基本とするのは「核兵器の使用は例外なく非人道的であり、二度と使わせないためには廃絶するしかない」という認識です。条約を批准した国は次のことが禁止されます。
- 核兵器を作ること
- 核兵器を持つこと
- 核兵器を使うこと
- 核兵器使用の可能性を示して脅すこと
- 同盟国の核兵器を自国の領土に配備させること
また、核兵器や核実験の被害者に対して国が援助しなければならないことが盛り込まれている点が特徴的です。
核兵器禁止条約に反対している国は、核抑止力を理由にあげます。しかし、核兵器があっても戦争が始まってしまう現状や核兵器が生む甚大なデメリットを鑑みれば、納得できる説明とはいえないでしょう。
条約採択後、核兵器製造企業に投資や融資を行わない方針を発表する金融機関が増えており、社会の潮流にも変化が見られるのは明るい兆しです。また、条約を支持するよう政府に訴えている地方自治体は国内で663(2023年9月)にのぼり、国外ではワシントン・パリなど核保有国の主要都市も含まれています。
2022年にウィーンで開催された第1回締約国会議には、長崎市長・被爆者・多くの市民が参加し、条約前進のための現実的で意欲的な行動計画が採択されました。条約を批准していない国で「核の傘」の下にあるドイツ・ノルウェー・オランダ・ベルギー・オーストラリアもオブザーバーとして参加しています。
日本政府がオブザーバー参加さえ見送ったのは「核兵器国の関与がないと核軍縮は進まず、核兵器禁止条約には核兵器国が1か国も参加していない」という理由でした。もどかしい態度の日本政府を尻目に、国際的な場で日本からの発言を届けてくれる市民やNGOをとても頼もしく感じます。
平和に生きる権利は、全ての人に保証されるべき基本的人権です。2023年11月にニューヨークで開かれる第二回締約国会議を期待をもって見守りましょう!
核兵器禁止条約についての参考リンクはこちら
ながさきの平和「核兵器禁止条約(TPNW)」
広島市公式HP「核兵器禁止条約」の概要