ラッコから考える海の豊かさのためにできること
「水族館でラッコを見られなくなるかもしれない。」
このような話を聞いたことがあるでしょうか。
国内のラッコの飼育数は、2022年12月時点で3頭となってしまいました。最盛期には28館で122頭が飼育されていましたが、1998年に米国が輸出禁止の方針を打ち出し、新規でのラッコの導入ができなくなっています。寿命で亡くなるラッコを補うためには繁殖で増やすしかありませんが、飼育数が少ない現状では非常に困難です。
ラッコは環境省レッドリストで絶滅危惧IA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでEN(Endangered:危機)に掲載されている希少種です。1800年代を中心に毛皮目当ての乱獲により、推定生息数30万頭だったラッコは1900年代初めには2千頭以下にまで激減しました。乱獲のほか、海洋汚染や地球温暖化も生息数減少の一因となっています。
ラッコは、多くの貝類・ウニ類を食べるため、漁業者から厄介者あつかいされることもあります。しかし、ウニが増えすぎると海藻を食いつくすこともあり、実際にラッコが激減した海域ではウニによる食害で磯焼けが起こり、魚介類の繁殖に悪影響が生じました。逆にラッコが生息する海域では、ウニによる食害が抑制されて海草の森が守られており、二酸化炭素(温室効果ガス)の吸収量の増加にもつながっているのです。
さらに、ラッコが動き回ることで海草の有性生殖が促進され、ラッコがいる海域の方が遺伝子の多様性が高く生態系が安定しているという研究結果もあります。ラッコは生態系の中で海藻・海草類の存続を助け、豊かな海のバランスを整える役割も果たしているのです。
国内にも野生のラッコが生息し観察できる場所があります。北海道浜中町の霧多布岬周辺です。ラッコ目当ての観光客やカメラマンが増えており、浜中町ではガイドラインを作成しラッコを脅かさないよう呼びかけています。野生のラッコを観察する場合には、野生生物との距離をわきまえマナーを必ず守りましょう。
豊かな海の象徴であるラッコは決して遠いどこかの野生生物ではなく、彼らのすみかである海と私たちの生活は直接つながっています。プラスチックの使用を減らし、野外でゴミ拾いをするなど、海の生きものへの負荷を想像しながら足元から行動を起こせると良いですね。