生物多様性が回復すると私たちの生活はどう変わる?豊かさをもたらす3つの要素

「生物多様性」の回復と都市生活者の関係
環境ニュースで「絶滅危惧種が回復した」と聞くと、「よかったね」で終わってしまいませんか?しかし、このニュースは、地球全体の問題であると同時に、私たちの「暮らしの質」と「お財布」に直結する、極めて身近な話なのです。
地球上には、約175万種の生物が存在すると言われていますが、その生態系のバランスが崩れると、それはやがて私たち人間の生活基盤を揺るがします。例えば、森の木が減ると、新鮮な水が手に入りにくくなったり、土砂災害のリスクが高まったりします。
今回は、「野生動物の回復」というポジティブな面を深掘りし、生物多様性の回復が私たちの生活にもたらす具体的なメリットを、環境・経済・ウェルビーイングの3つの視点から解説します。悲観的なニュースに疲れたあなたも、これを読めば「生物多様性って自分ごとだ!」と気づけるはずです。
1. 環境効果編:無料で受けられる「自然のサービス」がグレードアップ

生物多様性の回復は、私たちが日々生活する上で欠かせない「自然のサービス(生態系サービス)」の質を高めてくれます。それは、まるで私たちが知らない間に自然が無料で行ってくれている、大規模なインフラ整備のようなものです。
私たちが水道から得る安全な水は、森林の保水力と湿地の浄化能力によって支えられています。
森林の保水力: 多様な植物が根を張り、土壌にスポンジのように水を含ませることで、地表の水を自然にろ過します。これにより、ダムに流れ込む水の水質が保たれ、水道水の処理コストを大幅に削減できます。
湿地・マングローブの浄化: 湿地やマングローブ林は、「自然の腎臓」とも呼ばれ、水に含まれる有機物や汚染物質を吸着・分解する能力を持っています。多様な動植物が生息する健全な湿地が広がるほど、化学薬品に頼らない水質浄化が進みます。
生物多様性が豊かな場所は、私たちにとって最も安価で効率的な「天然の浄水場」なのです。
気候変動による異常気象が増加する今、自然が持つ災害から私たちを守る力(グリーンインフラ)の重要性が再認識されています。
防潮堤の代わり: 健全なサンゴ礁や海草藻場、マングローブ林は、高波や津波のエネルギーを吸収し、沿岸地域への被害を軽減する天然の防潮堤として機能します。
土砂災害の防止: 健全な森林生態系は、多様な植物の根が土壌をしっかりと固定するため、大雨や地震による土砂崩れや地すべりの発生リスクを軽減します。
2. 経済効果編:新しい豊かさを生む「エコツーリズム」の可能性
生物多様性の回新しい経済的な価値と雇用も生み出します。その最たるものが「エコツーリズム」の発展です。
絶滅の危機を乗り越え、野生動物が戻ってきた地域では、その生き物を見るための観光が重要な収入源となります。
持続可能な観光モデル: 動物の生息地に配慮したガイドツアーや、地域住民が運営する宿泊施設、特産品販売などが活性化します。これにより、都会で暮らす私たちも、その地域を訪れて消費することで、間接的に環境保護に貢献できるようになります。
国内旅行・ワーケーションの魅力向上: 地域の豊かな自然が回復することで、国内旅行の魅力が高まり、地域への人の流れが生まれます。自然の中でリフレッシュできるワーケーションの需要も高まり、地域に新しい雇用と税収をもたらします。
3.私たちの心の健康(ウェルビーイング)にも大きく寄与

最後に、生物多様性の回復が私たちの健康につながることについて。
ストレス軽減効果: 科学的な研究でも、豊かな自然環境に触れることで、ストレスホルモンの減少、血圧の低下、集中力の向上といった効果が確認されています。都市の中の小さな緑地や、近所の公園であっても、そこに多様な植物や鳥がいるだけで、私たちの心は癒されます。
未来への希望:環境破壊「自然は回復できる」というポジティブな事実は、未来への希望を与え、私たち自身の行動意欲を掻き立てる最も強力なエネルギーとなります。
生物多様性の回復は、私たちの生活コストの削減と、新しい経済活動による価値創出という、目に見える形で「お財布」に影響を与えています。
生物多様性への投資は「未来の自分のための貯金」

私たちのお財布と直結する例を具体的にあげてみましょう。
生物多様性が健全に機能している状態は、本来、行政や個人が負担すべきインフラ整備・維持費、災害対策費などを、自然が代行してくれていることを意味します。これにより、回り回って私たちが支払う税金や公共料金、保険料などの負担も考えられるのです。
農業コストの削減: 多様な昆虫や鳥類が生息する健全な生態系は、農作物の受粉を無料で行ってくれます。世界規模で見ても、昆虫などによる受粉の経済的価値は年間数兆円に上るとされ、この「天然の受粉サービス」が失われれば、人為的な受粉コストや農業生産の低下で、結果的に私たちが購入する食料品の価格に跳ね返ってくることになります。
医療費の削減: 環境が回復し、人々が自然と触れ合う機会が増えることは、ストレス関連の疾病が減り、結果的に個人の医療費や社会全体の医療負担を軽減する効果が期待できます。これは、私たちの健康と直結する大きな「経済効果」です。
観光収入の増加: 特定の絶滅危惧種が回復したり、豊かな生態系が保全された地域は、自然体験を求める観光客にとって魅力的な目的地となります。
観光客が支払う宿泊費、ガイド費、地域特産品の購入費などが、地域住民の収入となり、過疎化に悩む地域に新しい雇用と活力を生み出します。エシカルな旅先を選び、そこで消費することで、間接的に環境と経済に貢献できます。
バイオミミクリーと医薬品開発: 生物多様な生態系は、未だ人類が発見していない新薬の原料や、自然界の仕組みを応用した*技術(バイオミミクリー)の宝庫です。
物多様性を保全することで、医薬品や新素材、省エネ技術などの研究開発の土台が守られ、未来のイノベーションによる経済的利益を生み出す可能性が担保されます。例えば、特定の海洋生物から得られる抗がん剤や、ハスの葉の構造を模倣した撥水技術などがその代表例です。
サステナブルな製品価値:生物学エシカル」な農林水産物(例:認証を受けたコーヒー、 FSC認証の木材など)は、環境意識の高い消費者から選ばれやすくなります。
消費者である私たちは、そのような認証商品を選ぶことで、環境に配慮する企業を「お金」で応援できます。これにより、企業のブランド価値が向上し、環境負荷の低い商品が市場に増えるという好循環が生まれ、私たちの「エシカルな買い物」の選択肢が広がります。
まとめ:絶滅危惧種の回復は、あなたの未来の「安心」につながる
絶滅危惧種の回復というポジティブニュースは、ただの「いい話」ではありません。それは、私たちがより安全で、健康的で、経済的にも豊かな生活を送るための「保険」が回復していることを意味します。
今日から、身の回りにある自然の豊かさ(安全な水、新鮮な空気、身近な緑)を意識し、サステナブルな消費行動で地域経済に貢献すること。これこそが、私たちが「地球再生」に参加し、自分の未来をより豊かにするための第一歩です。
参照元
環境省:令和4年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r04/index.html
WWFジャパン:生物多様性の恵み「生態系サービス」とは https://www.wwf.or.jp/activities/project/5257.html
国立環境研究所:森林や湿地による水質浄化機能に関する研究報告 https://www.nies.go.jp/kanko/tokubetu/pdf/sr68.pdf
国土交通省:グリーンインフラの推進に関する基本的な考え方https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001864548.pdf
IUCN(国際自然保護連合):生態系保全による防災・減災効果に関する報告書 https://portals.iucn.org/library/sites/library/files/documents/2015-001-Ja.pdf
観光庁:エコツーリズム推進に関する基本方針と経済効果分析 https://www.env.go.jp/nature/ecotourism/try-ecotourism/law/kento_r7/pdf/kentoR7_giji.pdf
林野庁:「森林浴」等の健康への効果に関する研究結果まとめ https://www.rinya.maff.go.jp/puresu/h16-3gatu/0310sinrin.htm
















