「培養肉=クリーンミート」気候ビジネスが生む新技術に勝算はあるのか?
2050年には世界人口が100億人に達する見込みに。世界連合食糧農業機関(FAO)の試算では、現状より7割多く食糧生産を増やす必要があると報告される。
そんな中、世界各国のスタートアップ企業らがしのぎを削って研究開発を進めるのが人工培養肉だ。2030年までに2億7810万米ドルの市場規模への成長予測もある。培養肉マーケットは未だ黎明期にあるものの、新たなフードテックの台頭で実用販売化が現実味を帯びている。今回は、培養肉の現状と今後の課題にフォーカスしたい。
◎環境に優しいたんぱく源=「クリーンミート」
培養肉は、既存の畜産由来のお肉に変わる代替肉のひとつ。ただし、大豆やひよこ豆が原材料であるプランツの代替肉とは別物である。
培養肉は家畜の幹細胞を培養して、人工的にたんぱく源を生み出す技術で作られる。従来は「cultured meat(培養肉)」とも呼ばれていたが、飼育時に抗生物質への投与やCO2排出の必要がない環境負担が少ない側面を持つことから「clean meat(クリーンミート)」の呼称が浸透しつつある。
ご存知の通り、牛や豚など畜産物を育てるには、大量の飼料や水、多大な土地が必要だ。特に牛のげっぷやおならから通じて排出されるメタンは、二酸化炭素とくらべて温室効果ガスが格段に高い。こうした気候変動と戦う食糧課題の解決策のひとつが培養肉の台頭だ。来る食糧危機に備えて、低コストかつ大量生産できるクリーンミートとして技術開発が加速している。
◎「環境に優しい」は本当か?
果たして培養肉は環境に優しいのだろうか?こんなデータがある。
従来の欧州で用いられてきた畜産方式より、培養肉の方がエネルギー消費量を約7〜45%、土地利用は99%、水使用の82〜96%を抑えられたというものだ。※環境条件や比較する商品の種類により異なるが、地球環境への影響を考えるとラボで生まれる培養肉の方が負担が少ないと結論づけられている。日本国内でも食品大手の日清食品ホールディングスや日本ハムらが、培養肉への研究開発、商業化にむけた動きが注目されている。
◎「高いコスト」と「法整備」が今後の課題
2013年にモサ・ミート社(オランダ)が世界初の培養肉ハンバーガーを披露して約8年が経つ。当時はパテ1枚の製造に約3,000万円と莫大なコストがかかり、コストダウンが課題であった。2020年、シンガポールでは動物細胞から作る培養肉の製造販売が承認された。中東カタールや米国でも本格商業化に向けて販売承認の動きが見られる。
果たして培養肉は食糧市場のゲームチェンジャーになれるのか?倫理面や品質管理といった安全面をクリアした培養肉が食糧市場のゲームチェンジャーになる日はそう遠くないかもしれない。