ゴーストギアとは?海を漂う”漁具の幽霊”が引き起こす深刻な環境問題
海洋プラスチック問題といえば、ビニール袋やペットボトルを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、「ゴーストギア」という言葉を聞いたことはありますか?これは海洋プラスチック問題の中でも特に深刻でありながら、まだあまり知られていない問題のひとつです。
この記事では、ゴーストギアとは何か、どれほどの規模で海に流出しているのか、なぜ問題なのか、私たちにできることまでを、わかりやすく解説します。
ゴーストギアとは何か?

ゴーストギア(Ghost Gear)とは、海に流出してしまった漁網・漁具・釣り糸・釣り針などの総称です。幽霊(ゴースト)のように誰にも管理されないまま海中を漂い続けることから、「漁具の幽霊」とも呼ばれています。英語では “Abandoned, Lost, or Otherwise Discarded Fishing Gear(ALDFG)” とも表現されます。
漁具や漁網は、私たちの日常生活にはあまり身近な存在ではありません。しかし、私たちが毎日食べる魚介類は、漁業関係者が漁具を使って漁をするからこそ食卓に届くもの。その裏側で、使われなくなった・あるいは意図せず失われた漁具が、海洋環境に取り返しのつかないダメージを与え続けているのです。
ポイント:ゴーストギアとは
海に流出した漁網・漁具・釣り糸・釣り針など。誰にも回収されないまま海中を漂い、生態系・経済・安全に深刻な影響を与える廃棄漁具のこと。
ゴーストギアの流出規模

ゴーストギアは、世界中で年間50〜100万トンもの量が海に流出していると言われています。これは海洋プラスチックごみ全体の約10%に相当するとも試算されており、決して無視できない規模です。
さらに深刻なのは、その耐久性です。家庭から出るプラスチックゴミは、紫外線や波の影響を受けて比較的早期にマイクロプラスチックへと細分化されます。しかし漁具や漁網は、海中での過酷な使用に耐えるよう設計された高耐久素材で作られているため、劣化せず長期間にわたって海中を漂い続けます。
数十年以上にわたって海底や海中を漂うゴーストギアは、その間ずっとサンゴや海藻を傷つけ、海洋生物の命を奪い続けるのです。
なぜゴーストギアが発生するのか

ゴーストギアが海に流出してしまう主な原因は、大きく2つに分けられます。
① 紛失・放置による自然流出
漁の作業中に漁具が岩礁に絡まって回収できなくなったり、強風・高波で流されてしまうケースがあります。また、港に山積みにされた古い漁網が適切に処分されないまま放置され、風雨にさらされて海に流れ込むパターンも見られます。
こうした流出は、適切な管理体制と廃棄ルールを整備することで、ある程度防ぐことができます。
② 違法な廃棄・不法投棄
残念ながら、一部の漁業関係者が廃棄コストを削減するために漁具を意図的に海に捨てるケース、あるいは漁獲量の過剰取得(乱獲)を隠蔽するために漁網ごと投棄するケースが報告されています。
こうした違法投棄は、監視体制の強化や国際的な規制の整備など、根本的な対策が必要です。
ゴーストギアが引き起こす経済的損失

「漁業の問題でしょ?」と思う方も多いかもしれません。しかし、ゴーストギアの影響は漁業者だけでなく、私たちの生活にも直接的・間接的に影響を及ぼします。
観光資源・景観への損失
地球の表面積の約70%は海が占めており、美しい海岸線は世界中の観光地として人々を惹きつけています。しかし、砂浜に朽ちた漁具や漁網が打ち上げられていれば、自然景観は大きく損なわれ、観光業や地域経済にも打撃を与えます。
野生生物・漁業資源の損失
誰にも管理されないゴーストギアは、海中で延々と海洋生物を捕獲し続ける「幽霊漁業(ゴーストフィッシング)」を行います。本来であれば漁獲されていなかった魚・甲殻類・海洋哺乳類などが犠牲となり、漁業資源そのものの枯渇にもつながります。
人や船舶の安全への損失
漁船や一般船舶のスクリューに漁網が絡まると、航行の遅延・エンジン故障・最悪の場合は転覆事故につながることもあります。漁業者の命に関わるリスクとして、非常に深刻な問題です。
海洋生物への深刻な被害

ゴーストギア問題で最も痛ましいのが、罪のない海洋生物への被害です。
ウミガメ・アザラシ・イルカ・クジラ・海鳥など、さまざまな動物がゴーストギアに絡まり、身動きが取れなくなって衰弱・死亡するケースが世界中で報告されています。溺死・窒息・飢餓・傷による感染症など、苦しみながら命を落とす姿は、生物多様性の観点からも見過ごすことができません。
さらに、海底を覆うゴーストギアはサンゴやイソギンチャクなどの底生生物を破壊し、その周辺に生息する多様な生態系全体を崩壊させることもあります。生態系が崩れれば、やがて人間の食糧供給や気候調整機能にも影響が及びます。
ゴーストギア問題への取り組みと私たちにできること

ゴーストギアは世界規模の漁業・国際組織・各国政府が絡む複雑な問題であり、一夜にして解決できるものではありません。しかし、国際的にはいくつかの取り組みが始まっています。
主な国際的取り組みの例
- FAO(国連食糧農業機関)によるゴーストギア対策のガイドライン策定
漁具へのマーキング義務化(紛失時の追跡・責任の明確化) - 新報告書『日本におけるゴーストギア対策の現在地―漁業系プラスチックごみの解決に向けて―』発表
- JICA 海洋プラスチックごみの実態把握及び資源循環に係る本邦技術の活用に向けた情報収集・確認調査
私たち一人ひとりにできること
ゴーストギアは遠い世界の問題のように感じられますが、行動を起こせることは必ずあります。
- 日常のプラスチックごみを減らす(海洋プラスチック全体を減らす取り組みの一環として)
- ビーチクリーン活動に参加する(打ち上がったゴーストギアや海洋ゴミを回収する)
- ゴーストギアについて知り、周囲に伝える(まず「知る」ことが変化の始まり)
- サステナブルな漁業を支持する(MSC認証など、持続可能な漁業を選ぶ)
7. まとめ:ゴーストギアを「知る」ことが最初の一歩
ゴーストギアとは、海に流出した漁具・漁網の総称であり、年間50〜100万トンが海を漂い続けています。高い耐久性を持つ漁具は長期間にわたって「幽霊漁業」を続け、海洋生物・生態系・観光・漁業・人命にまで多大な損失をもたらします。
海洋プラスチック問題の中でも特に認知度が低いゴーストギア問題ですが、その影響は確実に私たちの生活にも波及しています。まずは「知ること」から始め、できることを一つずつ実践していきましょう。
参照
WWFジャパン ゴーストギア発生予防対策・地域プロジェクトhttps://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/5041.html
2026年4月 加筆修正











